研究分野紹介

電子光理学研究センターの線形加速器と BST リングあるいはその他の施設の電子線・ガンマ線を用いて加速器科学・ビーム物理学、原子核・ハドロン物理学、 核・放射化学の3分野での研究を行っています。2015年4月より、凝縮系核反応に関する共同研究部門が新たに設置されました。

加速器ビーム物理研究部

tACTS
テラヘルツ光源試験加速器 t-ACTS

 加速器装置内の荷電粒子の運動 (ビームダイナミクス)を研究しています。ブースターストレージリング(BST リング)を用いたビームダイナミクス、LaB6やCeB6単結晶をカソードに用いた高輝度・低エミッタンス直流電子銃の開発、コヒーレント・テラヘルツ光源の開発を行っています。テラヘルツ光 (3000億~10兆ヘルツの周波数)は電波の透過性と光波の直進性を有しており、X 線に変わる非破壊検査などの光源として近年特に注目されています。電子ビームの縦方向位相空間分布を制御できる高周波電子銃と進行波型加速管を用いて100フェムト秒以下の超短バンチ電子ビームを生成し、永久磁石で構成されるアンジュレータを用いてコヒーレント・テラヘルツ光を発生する光源の開発を進めています。

研究者:濱 広幸、柏木 茂、日出 富士雄、武藤 俊哉

核物理研究部

多重ガンマ線検出器群 FOREST
多重ガンマ線検出器群 FOREST

 核理研や大型放射光施設 SPring-8レーザー電子光施設 LEPS において、メソン (クォークとその反粒子である反クォークが結合したもの)の光生成を通してハドロンの性質を研究しています。
 ハドロンはこれまで3つのクォークからなるバリオン、クォーク・反クォークからなるメソンの二種類に大別されてきました。最近 SPring-8/LEPS で 5 つのクォーク (ペンタクォーク)からなるΘ+粒子の発見に成功しました。LEPS においてΘ+粒子の研究を続ける一方で、核理研でも多重ガンマ線検出器群 FORESTを使ってηメソンの精密測定によりストレンジネスをあらわに含まないペンタクォークの候補の研究を行っています。
 そのほか原子核内部という1cm3あたり約1億トンという超高密度の世界でのハドロンの性質を調べ、質量創成のメカニズムを研究しています。 この目的のために、FOREST実験の他に、SPring-8の新レーザー電子光施設 LEPS2 において BGOegg実験を開始しました。

研究者:大西 宏明村松 憲仁宮部 学時安 敦史、佐田 優太、松村 裕二、清水 肇笠木 治郎太

光量子反応研究部

 天然には安定に存在しない短寿命不安定核の構造研究は、現代原子核物理学に課せられた最重要課題の一つであるとともに、宇宙での元素合成過程の謎に迫るうえで決定的に重要であるため、世界中の研究者が短寿命不安定核の内部構造の研究に鎬を削っています。
 原子核内部構造解明には、高エネルギー電子を原子核に照射しその散乱具合から内部構造を決定する電子散乱という実験方法は最も優れています。安定な原子核の構造を電子散乱で明らかにしたHofstadter はノーベル賞を受賞しています。
 しかしながら、生成が困難で短寿命で崩壊する不安定核の場合、電子散乱実験用標的生成が非常に困難なためにいままで不可能と考えられてきました。私達は極少数の不安定核標的数で電子散乱実験を可能にするSCRIT法(Self-Confining RI Target:自己閉じ込め型RI標的)と呼ぶ画期的な標的生成技術を発明しました。この技術をもとに理化学研究所と共同で世界に先駆けて短寿命不安定核専用の電子散乱施設を建設しました。2015年秋よりいよいよ短寿命不安定核の研究を開始する予定です。

研究者:須田 利美、本多 佑記、玉江 忠明、鈴木 敏男
核・放射化学グループ
Lab3_01
放射化学実験室

 放射性同位元素(RI)を用いた様々な研究を進めています。当センターの大強度電子線形加速器では最大エネルギー60 MeVまでの制動放射線を生成することができます。それをターゲット物質に照射することで光核反応を起こし,様々な種類のRIを製造しています。また,東北大学所有の大型サイクロトロン(荷電粒子照射)や核燃料施設(娘核種の分離)も利用しており,施設の特長を活かした相補的なRI製造を行っています。得られたRIは必要に応じて放射化学的手法により精製され,核壊変特性の研究,光量子放射化分析,元素挙動を知るための化学トレーサー,物質科学研究などに利用されています。その他,基礎データとして重要な核反応断面積・収率や制動放射線の形状なども測定しています。

研究者:菊永 英寿、横北 卓也

凝縮系核反応研究部

低エネルギー重水素加速器
低エネルギー重水素加速器

 原子核反応を起こすには、原子核を高エネルギーに加速することが必須です。ところが、1989年に、英国と米国の電気化学の研究者が、Pd電極を用いた重水の電気分解により異常な発熱現象を見出し、Pd電極中でD+D核融合が生じている可能性を提起しました(いわゆる「常温核融合」)。このような 「凝縮系中での超低エネルギー核反応」の研究を推進しようと、2015年4月に、電子光理学研究センターと株式会社クリーンプラネットが設置したのが、この(産学連携)共同研究部門です。

 常温で核反応が生じることは、従来の核物理学の常識から大きく逸脱しています。しかしながら一 方では、凝縮系が超低エネルギー核反応にどんな影響を及ぼしているのかは、十分に調べられていません。これまで世界各国で、金属中での低エネルギー核反応、Pd電極の重水電気分解・Pdナノ粒子の重水素ガス吸蔵での異常な発熱現象、重水素ガスのPd薄膜透過に伴う核変換現象等を中心に、研究が展開されてきました。観測された現象が未知の核反応によるものであれば、原子核反応の概念に大変革をもたらします。また、「凝縮系核反応」は、社会的にもクリーンな原子核エネルギーとして、将来の産業構造に大きな変化をもたらすと期待されています。

本共同研究部門では、以下の研究開発に取り組んでいます。

  1. 「凝縮系核反応(CMNR)」の学術的基盤データの増強と機構解明
  2. 将来のクリーンエネルギー技術としての可能性追求
  3. 革新的放射性廃棄物処理技術に向けた基礎研究
研究者:岩村 康弘、伊藤 岳彦、笠木 治郎太、菊永 英寿

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